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神山が自分勝手でいい加減な人間ってのは分かっとる。そんな性格が災いして皆にも疎まれとるけど、頭の回転が遅い俺も同類だわなあ。なぜ神山とつるんどるかと聞かれると、みんなが思っとるより意外とええ奴だし、俺の話をちゃんと聞いてくれるでだ。それにあいつは偶に鋭く真実を突くんだよな。例えば、先日若さ真っ盛りなのに、俺ん等はこのままではいかんって話を神山がした時。あれにはギクっとしちゃったもんな。確かに最近なんとなくそんな事を考えとった。蝉の例え話も良かったな。うん、あれは本当真に迫っとった。ついつい、またひつまぶしを取ってしまったもんな。あれ取るとママンがあんまりいい顔せんのだよね。ピザにしとけば良かったかな?いや、けどあの発言はひつまぶしもんだったね。
青春を謳歌する為にどうしたらええか。うーん色々考えてみたんだが、さあっぱり分からんかった。だから町会議員をやってるダディに聞いてみたんだな。ダディは俺と違って東京のええ学校を出とるし、本もたくさん読んどる。今は頭も禿げてきとるけども、きっと若い頃はさぞかし大胆に青春街道を突っぱしっとったに違いない。
「ダディ若い頃ってのはどう過ごすべきなん?」
ダディは書斎で分厚い本を見つめとった。俺がドアを開けると眼鏡をずらして顔を上げた。
「おうマイサン。どうした急に」
こめかみにうっすらと汗が滲んでテカっとる。もう直ぐツルツルに禿げてまいそうだなあと一瞬だけ思った。
「いや、なんか高三の夏にこのままじゃいかん気がするもんだで、なんかしようと思っとるんだけども、さあっぱり何やってええか分からんのだわあ」
ダディは意味あり気な笑みを浮かべ、ふかふかの革張りの椅子から立ち上がった。そして本棚に行き何やら一冊の本を抜き取り、机に置いた。
「そんな気持ち若い頃は誰んにでもあるもんだわ。マイサンもそうだし、もちろんダディもそうだったし、世界中の若いもんもみんなそうなんだがや」
『ライ麦畑でつかまえて』とその本の表紙には書いてあった。
「これ読んだらなんか分かるん?」
「ああ、なんかしらのヒントは必ずあるで、嫌でも最後まで読んでみやあよ」
小説かあ。一度も読んだことねえなあ。けど、これを読んだらどうすればええのか分かるかもしれんし、急に賢くなれるかもしれん。それに読み切ること事態が「青春」かもしれんぞ。よし、絶対に最後まで読み切ったろう。
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