全ての若き野郎ども

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 ゴンスケとトボトボと夕暮れのあぜ道を歩く、ゴンスケはマイサンが五歳の頃に我が家に来たでもう老犬もええとこだ。ゴールデンレトリバーらしい美しく艶のある毛並みは消えたが、丈夫で不自由もなく今も散歩に出れとる。きっと高級な輸入品の餌を与えとったからだろうなあ。    昨夜急にマイサンが部屋に入ってきて、――このままじゃいかん気がする――なんて青春っぽい事を言い出したもんだで、ちいっと驚いてまったがマイサンももうそういう年頃かと思うと、なんだか嬉しいもんだわな。取りあえずサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を渡しといた。若者はみんなアレが好きだで。けどアレはどんな内容だったかなあ、もう忘れてまったがや。    そういえば同じ町会議員の横井さんとこの息子も受験だって言っとったなあ。幾ら包む?なんて露骨に聞かれてビックリしてまったがや。あいつんちのドラ息子と違ってマイサンは出来が違うがや、早生田なんて二流大学に行くのに三千万も包むなんて阿呆むき出しだわなアリャ。マイサンは三百万で替え玉使って慶王に行かせるつもりだ。親が阿呆だと二千七百万も損するんだな。可哀想に。「うちは適当に受験させて行けるとこに行かせますわ」と、あしらっといたった。  まあオレも親父に金包んで貰って慶王大学に入った身だし、マイサンに自力で入学しろともよう言えん。それにやっぱり議員の息子が高卒なんて世間体も悪いでなあ。  色々考えとったら真っ暗になってまったな。まったく街灯をもうちいっとは増やさな暗くてかんわ。そういえば、街灯は「街」の字が付いとるけども、田舎には適応せんのかな?田舎灯なんてのは聞いたことねえしなあ。その辺をちいっと家で調べてみて、おかしくなければ今度の町会議会で提案してみたろ。うん、やっぱオレみたいな都会的思想を持った人間がこの田舎を引っ張っていかなかんな。次の町長選挙の立候補も本気で考えたらなかんわ。
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