全ての若き野郎ども

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 高校野球の決勝戦が始まった。学校のみんなは応援に行ったが、俺は一人抜け出して、近所の喫茶店でコーヒーを飲んでいた。喫茶店のテレビでは我が校の試合を中継している。    喫茶店、高校野球。そんな漫画あったな。南ちゃんはどこだろうと、店内を見回し、カウンターを覗くと、店のおばちゃんと目が合った。 「あんたん所の学校出とるがね?応援いかんでいいの」 「僕、見ての通り文化系なもんで、野球なんて『野』がつく野蛮なもの嫌いなんです」  おばちゃんは鼻で笑った。 「じゃあ制服着て昼間から喫茶店入ってええんかね?」 「たまの息抜きですよ。ごく稀な『たま』の。学校サボったのなんて始めてだなあ」 「あんたをこの時間に店で見たのは始めてじゃないけどね」  おばちゃんは笑いながら言った。俺は気まずさを誤魔化す為にスポーツ新聞を広げ、コーヒーを一口啜った。    テレビに映る外野手の一人は、クラスメイトで中学の同級生の小谷だ。体が小さくて中学ではレギュラーでは無かった。けど野球馬鹿で一年中真っ黒に日焼けして、素振りばかりやっとった。今じゃレギュラーで甲子園まであと一歩の場所に居るなんて、当時はまったく想像出来んかった。  当時、今の俺を想像出来ただろうか?出来たとも言えるし、出来なかったとも言える。俺は馬鹿では無かったから受験も適当な学校(頭が良いわけでもないので、努力しないで入れる学校)を選んで難なく入学した。  未来は未来の俺の担当なので、当然俺はきっと高校生の俺がどうにか明るい未来を切り開いてくれるもんだと信じとった。そんな考え方の人間が明るい未来を切り開くわけは無いわけだ。だから予想はついたとも言えるし、つかなかったとも言える。当時から全く変わっとらんわけだ。    試合は九回の裏の守備になっとった。一点差だが、もうツーアウトだ。このままなら我が校は甲子園に行く。俺はテレビを見つめた。
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