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照れ隠しに机を平手打ちしてみた。
徐々に伝わってくるのは、痺れるような痛み。
「もう、早く名乗ってよ」
余計なことまで話してしまった。
『優しい』と誉めていても、やっぱり恥ずかしいでしょう?
「声、聞けば分かるだろ」
そんな私の姿を見て、矢上晋くんはバカにしたように鼻で笑った。
「覚えられないよ」
バカにされたという悔しさを隠すために、声を張り上げて注意を逸らす。
「そんなのお前だけだ」
確かに転んで動けなかった見知らぬ私を、助けてくれた恩人の声を忘れるなんておかしい。
その後に複数の人と会話をしたのなら忘れてしまうかもしれないが、残念ながら私が話したのは先生ただ一人だ。
これ以上ギャーギャー喚くと負け犬の遠吠えのように思われそうなため、代わりにため息を吐いた。
会話が一旦中断されると、周りの人の声が耳に入ってくる。
「ブスのくせに生意気」
「あの女、ウザい」
「なにあの顔、蜂にでも刺されたの?キモい」
コソコソ話している彼女達の声は、晋くんというヤツには聞こえていないようだ。
しかし、毎日のようにコソコソと悪口を言われ続けた私には、はっきりではないがある程度聞こえてしまう。
「……あのさ、女子達の視線が痛いんだけど」
あえて悪口を言われていることには触れず、決して良いとは言えない女子達の視線を指摘した。
……居心地が悪い。
「俺のせいかもな」
慣れているのだろうか……呆れたような、どうでもいいような態度だ。
「行かなくていいの?」
「女子と話すの嫌い」
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