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痛みのあまり足で体をしっかりと支える事が出来なくなり、前へ倒れそうになってしまう。
またコケてしまうのだろうか。
一日に二回も転んで、変な人に思われるなんてイヤだ。
幸いにも晋以外に人はいないのだが、誰かに転ぶ瞬間を見られるのはとても恥ずかしい。
なんて思いながら、徐々に汚い床へ向かって倒れていく。
「ったく、危ねぇな」
床とぶつかった時の酷い痛みを像していたのに、肝心の痛みは負傷部に空気が当たってヒリヒリする以外はなかった。
どうやら間一髪で横にいた晋が、ガッチリとした腕で体を支えてくれたため転ばずに済んだらしい。
「うおっ……ありがとう」
転びそうになるヒロインをギリギリの所で助けるという、マンガくらいでしか見た事のないシーンを、今自分が経験している。
「無理すんなよ?」
よろめいた私がしっかりと足を付いて立ったのを確認してから、晋は前を向き直す。
「気をつけます」
静かに呟いて再び歩き出した。
「先に行かなくて良かった」
「ん?何か言った?」
「何も」
はっきりと聞こえなかったが、晋はもう一度言うつもりはないらしい。
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