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「桜、きれーい」
広い校門のド真ん中を、なんの躊躇いもなく通り抜けたのは私、高坂美春(タカサカ ミハル)。
『名は体を表す』って言うけれど、絶対に嘘だ。
『美』という字が入っているのに、美しさなんかこれっぽっちもないんだから。
きっと『美しい春』という意味で付けられた名前だから、私(本体)は関係ないのだろうけど。
私はこの度、自由が教訓である佐和学園に入学する。
ヒラヒラと舞い落ちる白い桜。
校門に掛けられている『入学式』という看板。
シミ一つない制服を着ている新入生の胸には、ピンクの造花。
カメラを片手に騒ぐ、いつもよりお化粧が濃いであろう保護者達。
あちらこちらに入学を示唆するものはあるのに、新入生だという実感が全くと言っていいほど湧いてこない。
いずれ実感するはずだから、大して気にすることではないけど。
校舎まで導いてくれる桜のトンネルを通っていると、この学園までの長かった道のりを思い出してくる。
受験勉強はかなり辛かった。
数学が大の苦手な私は、さらに苦労した。
公式なんて覚えられないし、グラフなんて大嫌い。
やっと答えを出したって、つまらない計算ミスで努力は水の泡。
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