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里村昭哉は、気がつくと『妙味処』に足を踏み入れていた。建物自体はどっしりとした、簡素なつくりだった。
ただその一見何もない外観から発せられる異様な雰囲気は、ひっそりとした印象を与えながらも、里村の心に強烈に響いた。
ふと彼は店内を見回す。人の姿はない。ただ、アンティークというのか、年季の入った置物が、ところかしこに置かれている。
その全てに睨まれているような錯覚を覚え、妙な緊張感が、里村を包み込むように襲った。
気がつくと、彼は店の外に立っていた。逃げ出すような気持ちではあったが、不思議と落ち着いた足取りで、その場を離れた。何かにとりつかれたようでもあった。
数分後、彼は『白鳥橋』から、激しくうごめく河川と、静かに輝く夜空とのコントラストを眺めていた。その時点で、彼は気づくべきだった。
普段の彼は、こんなことはしない。
里村の心は、何かで満たされていた。彼自身、自分に何か異変が起こっていることに、気づいていない。
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