夢を売る男

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 彼の足は、再び何かにとりつかれたかのように、動き出した。まず、彼は踵を返す。  先程歩いたばかりの道をまた通り、同じ景色を眺めていく。里村にとって、その光景はまるでビデオの『巻き戻し』のようで、なんだか滑稽だった。  そして、戻って来てしまった。彼の心境は、強力な磁力に引き寄せられたかのようなものだった。この時点で、彼は気づいた。  自分はおかしい――と。  脳がいくら指令をだそうと、抗えない。どんどん引き寄せられていたことを、里村は悟ったのだ。  観念したのか、抵抗を止めると、彼の身体が解放されていた。首を動かし、周りを見渡す。先程は気づかなかったが、ここは、鬱蒼とした木々に、囲まれている。隔離されている、といったほうがしっくりきた。  今度は、その建物に添えられるように取り付けられた看板を見た。  ――『妙味処』。確かにその文字が里村の瞳に映った。  彼は一つため息を零し、扉を引いた。
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