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なにかの間違い
一人暮らしのあいの家に、「トイレ貸して」とあがりこんだ飯田。
大分よっぱらったあいは、何の躊躇もなく部屋にあげた。飯田もカナリ酔っていたようだった。
「私、飯田さんのファンなんです~。飯田さんの声、イイですょねぇ~」
そんなあいの発言は、軽率だったのか。
あいは水を二、三口飲み、グラスを置いた。
その時、5センチの距離に飯田の顔があった。
飯田はあいにキスをした。ビックリしたあいだったが、それで酔いが覚めたりはしなかった。無抵抗に受け入れてしまった。
飯田がベルトをしめ、部屋をあとにした。
あいは半裸のまま、眠っていた。
あいの初めての浮気になる。
「うわぁ・・・」
朝起きてあいは苦い顔をしていた。
二日酔いと後悔
「なんで覚えてんだろ・・・」
せめて、酔った勢いだったとしたなら、記憶も飛んでいてほしかったのだ。
二日酔いに、罪悪感。この二つにあいは頭を抱える。
「誰にも言えない・・・とりあえず、なにかの間違いだよね」
あいはそぅいい聞かせた。
それからのあいの仕事は、とてもやり辛いものになっていた。
受付と言われるだけあり、事務所入口の目の前に、あいの席はある。誰もが通る場所だ。だけどそこに、いつもの飯田はいなかった。そっけなく、目も合わせず足早に通りすぎて行く飯田、あいはそれを横目で追うだけだった。
飯田も何かの間違いだったと
そぅ思っていてくれる事を願いながら。
事実上、不倫。
あいは一生することはないだろうと思っていた。
しかし、飯田には過去にそのような相手が何人かいたらしい。
要は遊び人だ。
あいはそれを知らなかった。
飯田に避けられていると感じたあいは、思いきって飯田に話しかけた。
二人きりになった給湯室で。
「最近、私のコト避けてませんかぁ?」
極力普通に振る舞うあい。
「そぅかぁ?最近忙しいからかなぁ」
飯田も調子を合わせて答える。
「もっと話しかけて下さいょ!私飯田さんの声が好きなんですから。」
あいは細心の注意を払って笑顔を作った。ひきつらないように。
「ああ、わかったよ!」
飯田がニコっとする。
「じゃー用もなく事務所から電話しますから!」
あいがそう言うと、飯田は笑いながら
「わかった②」
と、優しい笑顔で応えた。
「飯田さんもきっと、なにかの間違いだったって考えてるんだなぁ」
そう思いながら、あいは給湯室をあとにした。
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