90人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、戻ったところで尾行者らしき何者かはいなかった。
今となっては尾行者が人間である必然はないが、これまでの騒ぎで俺が神経質になっていただけなのかもしれない。
どちらにせよ、これ以上帰宅を遅らせるのはよくないだろう。
俺は再び踵を返した。
背後には、白い車が止まっていた。
車種は知らない。
やや離れたこの場所からでも分かる、田舎には不釣り合いな外観。
格好いいというよりは品がある。
非合法組織の幹部が乗っていそうな高級車、とでも言えばいいのだろうか。
何となく近づき難い。
そんなことを思いながら脇を通ろうとした時、運転席の扉が開いた。
「……」
あ、と声を上げそうになる。
運転席から出てきた人物は相真の父、先澤相次さんだった。
一拍遅れながら、「こんにちは」と場違いな気がする挨拶をする。
「突然、すまない」
「あ、いえ、気にしないで下さい。どうしましたか?」
「少し、君と話をしてみたいと思ってな」
仕事帰りなのだろう、見れば相次さんはスーツ姿だ。
推定するところは四十代の会社員なのだろうが、その立ち姿には威風堂々という言葉が何よりも似合う。
若くありながら貫禄を備えた人物というのは、こうして相対してみると気圧されてしまうようだった。
最初のコメントを投稿しよう!