初日

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「今、私がここにいることに驚くなりときめくなりしないのか」 ややあって、曲者は呆れたようにそうこぼす。 もちろん常識的な反応でも対応でもないのは自覚している。 が、性分なので仕方がない。 「生憎俺は一人暮らしなので。他人が勝手に上がり込んでくるなんて日常茶飯事です。あと、初見で既にときめいたので今はときめいていません」 目茶苦茶だと思う。 曲者のほうも目茶苦茶だと思っているだろう。 おいおいマジかよ、と、顔に書いてあるようだった。 「……なんというか、悪かったな」 「謝ることはありませんよ。うち以外で同じことをしたら土下座でも足りるか分かりませんけど」 「悪いついでに頼みたいが、少年、しばらくこの家に居座らせてくれないか?」 「駄目です。大体どんな流れですか、これ」 「宿なしなんだ。路銀もない」 「他に、言うことは?」 「……若さの秘訣?」 違う。 「素性を明かす気はないのか、という意味ですよ。今のあなたはただの不審者ですからね」 「今日は眠いから明日にしてくれないか?」 「…………」 絶句。 もはや問答無用で一宿一飯を掻っ攫っていく気である。 ていうか、オーケーもらってから泊まれよ。順序が違うだろ。
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