初日

10/13
前へ
/638ページ
次へ
あたかも当前のような口調。 その言葉に嘘はないが、意志があったかといえばそうではない。 自然とこぼれた、一言だった。 それを、どう受け取ったのだろうか。 曲者はただ言葉にし難い表情を浮かべていた。 懐かしむような。 悲しむような。 あるいは、悔やんでいるのだろうか。 どうにも分からない。 分からないのだが、今は話の続きを待つことしかできない。 「……昔、同じことを言った人間がいたな」 そう間を空けずに、曲者は話を始めた。 「手っ取り早く済ませよう。少年、これを見てどう思う?」 言いながら、クロシェハットを取る曲者。 艶やかな黒髪。 先の方は、くせ毛なのだろう、少し跳ねている。 そして、 「いや、どう思う、って……」 猫耳。 アニメや漫画で見るような、マニアックな喫茶店で店員がアクセサリーとして着けているような、実物とは結構違う、デフォルメされたような猫耳。 ああ、この人は人間ではないのだな、と。 最初に抱いたのは、そんな感想だった。 「人間では、なかったんですね」 だからそのまま口に出した。 飾らず、隠さず、正直に。
/638ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加