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あたかも当前のような口調。
その言葉に嘘はないが、意志があったかといえばそうではない。
自然とこぼれた、一言だった。
それを、どう受け取ったのだろうか。
曲者はただ言葉にし難い表情を浮かべていた。
懐かしむような。
悲しむような。
あるいは、悔やんでいるのだろうか。
どうにも分からない。
分からないのだが、今は話の続きを待つことしかできない。
「……昔、同じことを言った人間がいたな」
そう間を空けずに、曲者は話を始めた。
「手っ取り早く済ませよう。少年、これを見てどう思う?」
言いながら、クロシェハットを取る曲者。
艶やかな黒髪。
先の方は、くせ毛なのだろう、少し跳ねている。
そして、
「いや、どう思う、って……」
猫耳。
アニメや漫画で見るような、マニアックな喫茶店で店員がアクセサリーとして着けているような、実物とは結構違う、デフォルメされたような猫耳。
ああ、この人は人間ではないのだな、と。
最初に抱いたのは、そんな感想だった。
「人間では、なかったんですね」
だからそのまま口に出した。
飾らず、隠さず、正直に。
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