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寝転んだままでもぞもぞとスラックスを脱ぎ、ネクタイを取る。
ワイシャツのボタンは三つ外れていた。
「ひとまずはこんなところか、少年?」
「…………」
視線だけで曲者の言葉に応じる。
曲者は慌てた風にワイシャツの前を閉じ合わせた。
眉間に皺を寄せてそんなところを見るか。
あとスラックスまで脱ぐな。
「二つ、いいですか?」
「上から89、59、82だ。歳は忘れた」
俺は聞き流して問いかけた。
「あなたが化け物の類なら、この家に何かいるかどうか、分かりますか?」
「分かる。分かるぞ。分かるからそれは明日にしてくれ」
つまりは何かがいるということか。この家の昔話もがせではなかった、というわけだ。
それだけ聞ければ、正直な話、何がいるかなんてどうでも良くなってきた。
「二つ目はなんだ、少年?」
投げやりに言う曲者。
言外に、さっさと寝させろと言っている。
そんな姿勢は勝手というより自由に見えた。
猫だから、だろうか。
数拍の間を空けて、
「名前を教えてもらえますか? 呼び名がなければあなたを曲者としか言えません」
「少年、君は私を曲者と見ていたのか」
そうでなければ何者だ。
とは言わない。
化け物だと返されて終わりだろう。
とにかく。
正直俺には泊める気がないだけで追い出すつもりもない。
向こうが出ていくか居座るか。
俺の中では、最早それだけが問題になっていた。
そして曲者は居座るつもりどころか、それを前提として家に上がりこんだのだろう。
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