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「黒い猫又、四季村無風だ。おやすみ、少年」
それだけを言って、曲者もとい無風さんはベッドに伏せた。
大の字である。しかも仰向け。
カッターシャツのボタンを三つも外してそんな姿勢をとる彼女に見蕩れたわけでは断じてないが、俺は名乗るタイミングを逸してしまった。
別に、引っ張ったところで何も意味がないので手早く自己紹介を済ませたかったが、どうやら今日は無理らしい。
すでに寝息をたてている。
しかし、この流れではしばらく居座られてしまいそうだ。名前を聞いたのは間違いだったかもしれない。
ベッドに寝転がる四季村無風は、既に寝返りを数回、ただでさえ着崩した服装がよりはだけてしまっていた。
飲み会から帰ってきた一人暮らしのオフィスレディは、きっとこんな感じなんだろうと、そんな偏見すら抱いてしまう。
見るからに家事全般が出来そうにない。
ただでさえ一軒家の一人暮らしは苦労が絶えないというのに(家事はもちろん、御近所付き合い、庭の手入れなど)、厄介な居候を抱え込んでしまったようだ。
「………………あーあ」
怒涛のように押し寄せる後悔。どうも、というか、やはり、というか、俺は頭も悪いらしい。
俯きながら、ため息を一つ。
今夜くらいは床で眠るのも悪くない。
自身にそう言い聞かせながら、ベッドの猫に布団を掛けた。
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