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〇
目が覚める。
枕元の時計は、ちょうど六時半を指していた。
昨晩は曲者と一悶着あったが、どうやらそれでも、俺の心身は動じないらしい。
いきなり曲者が自室の窓から押しかけてきて私はバケネコだと名乗り、揚句居候を決め込んでベッドを占拠したとなれば、一般的な感性を持つ人はこんな爽やかな朝を迎えられないだろう。
夜中にこっそり警察に通報するのではなかろうか。
俺とてその発想もあるにはあったのだが、やはり性分なのか、困り事を目の前にすると助けたくなる。
警察云々は躊躇われた。
しかし、何に困っているのかも聞かずに助けようと考えるあたり、馬鹿の謗りは免れないだろう。
「…………いない」
自分が馬鹿であることに気付き、嫌気がさして目が覚めたところで部屋を見回す。
ベッドはもぬけの殻。
窓は閉まっているし、鍵もかかっていた。
昨日の曲者――四季村無風さんの姿はない。
衣類が散乱しているので、寝ぼけて外出したのではないことを祈るばかりだ。
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