九日目

4/56
前へ
/638ページ
次へ
「ところで……」 疑問の視線を食卓へ。 それに気付いた春風はややはにかみながら、 「あたしが作っちゃった」 と。 少しだけ縮こまりながら言う。 「大変な時に、あたしは何も出来なかったから」 やはり、それは春風が気負うことではないように思う。 何を以てその考えに至ったかは分からないが、それでも。 「例えば急に耳が聴こえなくなったら、俺はひたすら混乱すると思う」 「……お姉ちゃんから聞いた?」 「いや。ただ、そうなってもおかしくないとは思ってた」 春風には今、読心能力がない。 そもそもその能力のためにトラウマを負ったというのだ。 防衛本能から読心能力が機能を止めても不思議はない。 だから俺の視線に気付いてから疑問を察した。 普段ならば呆けた俺の頭の中が勝手に流れているだろうに。 「無理はしてないな?」 「うん」 「ならいい。ご飯食べて学校行くぞ」 既にゆっくり出来るような時間ではないが。 それでも、噛み締めるように俺は言う。 猫又達がうちに来てから一週間、ようやくこれからをいつも通りにしていける。 各方面に不安材料は尽きなくても、今だけはとても穏やかだった。
/638ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加