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「ところで……」
疑問の視線を食卓へ。
それに気付いた春風はややはにかみながら、
「あたしが作っちゃった」
と。
少しだけ縮こまりながら言う。
「大変な時に、あたしは何も出来なかったから」
やはり、それは春風が気負うことではないように思う。
何を以てその考えに至ったかは分からないが、それでも。
「例えば急に耳が聴こえなくなったら、俺はひたすら混乱すると思う」
「……お姉ちゃんから聞いた?」
「いや。ただ、そうなってもおかしくないとは思ってた」
春風には今、読心能力がない。
そもそもその能力のためにトラウマを負ったというのだ。
防衛本能から読心能力が機能を止めても不思議はない。
だから俺の視線に気付いてから疑問を察した。
普段ならば呆けた俺の頭の中が勝手に流れているだろうに。
「無理はしてないな?」
「うん」
「ならいい。ご飯食べて学校行くぞ」
既にゆっくり出来るような時間ではないが。
それでも、噛み締めるように俺は言う。
猫又達がうちに来てから一週間、ようやくこれからをいつも通りにしていける。
各方面に不安材料は尽きなくても、今だけはとても穏やかだった。
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