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〇〇
朝。
「九奈ー、ちょっと来てくれ」
「はいよ」
授業の合間。
「九奈君、資料運ぶの手伝ってもらえる?」
「了解」
昼休み。
「九奈君、書類の整理手伝ってほしいんだけど、いい?」
「分かりました」
放課後。
「九奈、久しぶりに卓球部に顔出してくれねえか?」
「あー、図書委員に手伝い頼まれてるんだ。その後でいいか?」
「や、それならまた今度だな。帰りが遅くなっちゃ申し訳ない」
「悪いな。明日にでも覗きに行くよ」
と、まあ。
これが俺の日常だったりするのだが。
「なんか、久しぶりだな……」
誰に対してでもなく、一人ごちる。
図書委員に頼まれた手伝いを終えて、現在時刻は午後五時半。
春風には先に帰ってもらったし(諸事情により顔を合わせるのが照れ臭い)、あさぎはまだ部活の最中だ。
葛塚も生徒会役員と会議をしているようだったし、買い物の必要もないから冬風や秋風と一緒というわけでもない。
人もまばらな通学路。
一人暮らしだったころに戻ったような錯覚。
嵐の前の静けさとも違う。
昨日までの騒動が夢のように思えるほど、平和な匂い。
満ち足りているようであり、物足りなくもある。
まあ、家に帰れば、否応なしに騒がしくなるのだが。
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