九日目

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足取りは緩やか。 それでいて確かに。 今の自分の状況を客観視すれば、そうなろうものである。 何せ、成す術がない。 肩の力を抜く以外に、出来ることなどないのだった。 諦めて、とは言いたくないが、だから俺は久しぶりの安穏に浸っている。 昨夜宗旦から聞いた話によれば、人間と妖怪の間にトラブルが起きることはごく稀なことだと言う。 心配するだけ無駄ッスよ、と。 気楽そうなその言葉に、しかし、軽々しい響きはなかった。 「しっかし、なあ……」 今朝、メールで相真に相談してみた。 宗旦と名乗る監査役と思しき妖怪がうちで食卓を囲んでいるんだが、と。 それに対する相真の返信は、ただ一言。 ――大丈夫だ、問題ない。 携帯がみしりと軋んだ感触はまだ手に残っている。 さすがにその後、まともな返信を送ってくれたが。 曰く。 宗旦狐に害はなく、 しかし妖怪としての力はとんでもない。 それでも一緒に食卓を囲めるようなら、身に危険が及ぶ心配はないだろう、と。 その流れで宗旦が九尾の狐の遣いであることにもある程度の確証が得られた。 九尾の狐直属の部下、大天狐。 宗旦はその一角だと言う。 ――俺も末端の人間だから、確かな情報だとは言えねえけどな。 メールの最後にそんな文句を付け加えていたが、俺からすれば貴重な情報である。 少なくとも学校の図書室では知り得ない。 知ったからと言って、今更何が変わるわけでもないのだが。
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