初日

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○ どうも俺は目が悪いらしい。 勿論視力だって良くはないが、この場合は咄嗟の判断力といったほうがより正確なのかもしれない。 いきなりのことに対応ができない。 それは人並み外れて危機感がないからだと、俺は密かに思っている。 将来は間違いなくキャッチセールスにひっかかるだろう。 一口に言えば、間抜けなのだ。 今日も今日とて下校時間の帰り道、なんとも不思議な人を発見し、五秒ほど前からどうするか迷っているところだった。 そういえば一週間前から不審者に気をつけよと勧告がなされていたが、よもや前方二十メートルの距離にいる人がそうなのだろうか。 目撃者の証言と照らし合わせてみよう。 “黒いスーツとネクタイに白いカッターシャツを着ていた” “シャーロックホームズのようなマントと黒いクロシェハットを被っていた” “美女だった” “ビーチサンダルを履いていた” などなど。 ここから見えるのは後ろ姿だけだから全てを確認出来るわけではないが、見た限りは四分の三が該当している。 ああ、あれが例の曲者か。 歩きながらの頭の中でようやっと得心いった俺は、最早十メートルにまで縮まった不審者との距離を見なかったことにしてとにかく自然に踵を返した。 目指せ我が家。 このまま何事もなく家に帰ることができたなら、俺はきっと天晴れだ。 そんなことを真面目に考えるほどに俺は混乱していた。
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