初日

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だが。 「待て、少年」 例の曲者は待ってくれよう筈もなく、 「は…?」 瞬きをする間を縫うように、俺の前に立ちはだかった。 足音も衣擦れの音もなく、目に映るも捉えられぬような動きだった、と思う。 その曲者は髪の毛と同じ漆黒のクロシェハットの鍔をいじりながら、猫のような眼差しを俺に向けた。 「少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」 「え…、あ、はい…」 それだけの返事をするのがやっとだった。 歳の頃は二十そこそこだろうか。 夜を凝縮したような漆黒の髪に、金色の眼。身長は高く、着ているスーツはそのスタイルによく合っていた。 しかし面構えはやや幼く、見れば眼差しだけでなく顔全体に猫のような雰囲気がある。 不覚にも、見入ってしまう。 成程、確かに美人だ、と。
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