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そうして沈黙を守ること、約二分。
爪先を動かし、とりあえず体が動くようになったことを確認した。
この女の人からは、正直、悪意や敵意を感じない。
それは相手が隠しているからか、俺の鈍さによるところか、はたまた本当に怪しいだけで危なくない人なのかは、分からない。
もしかすると、何か事情があってネコミミ萌えの高校生を探しているのかもしれない。
ならば話くらいは聞いてみよう。
聞いて、力になれなければ、申し訳ないと言って別れればいい。
俺の周りに力になれそうな奴がいたらそいつに頼んでみようじゃないか。
そうして、俺は声をかけられてから初めて、女の人と真っ直ぐに目線を合わせる。
俺の返答を待っていた女の人は、期待に目を輝かせている。
そして、
女の人とすれ違うように、俺は走った。
我ながらうまく不意をつけた。
事の大小に関わらず、俺はこうしたパターンで面倒に巻き込まれる。
以前はそれで同性愛者の集う店に連れていかれそうになったこともある。
女の人は追ってくる気配がない。ただ、あからさまに残念そうにうなだれていた。
申し訳ないと心の中で呟いて、俺は、あの女の人とまともに言葉を交わさなかったことに少しばかりの後悔を抱く。
そんな、帰り道。
普段は通らぬ細い道が、まるで見知らぬ土地のように感じられた。
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