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「何処行ってたの、君」
とりあえず発した言葉に骸は、地獄界です、とよく判らない事を答えた。
僕の手が届かない所なのだという事だけは判ったが。
「そう。会いたかったよ」
「クフフ、ありがとうございます。でも、僕には時間がない」
骸は急に真剣な顔付きになった。
そうして、軽く触れた。
骸の唇が、僕の唇に。
今のは、一体、何。
驚いて、僕は声も出なかった。
骸は顔を真っ赤にしながら、満足気な表情を浮かべる。
それがムカつくのに、だけど何故か暖くて、僕は動けなかった。
「骸……」
「次は何時会えるか判らないので……すみません、雲雀君。僕は、とても貪欲なんです」
君に会えただけではとても、気が収まらなかった。
骸は僕の耳元でそう言って消えた。
咄嗟に伸ばした手は、骸ではなく女子の腕を掴む。
嫌だな、こんなの。
気付きたくないモノに気付いて、同時に欲しいモノが手に入らないなんて。
fin.
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