死にたいほどの夜

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部屋中に響き渡る 騒音にも似た 音楽を消して、 使い慣れたベッドへと 身体を沈める。 薄く開いた カーテンの向こう、 広がる夜空には 輝きを放つ満月の姿… 移した視線を部屋を灯す スタンドに戻して、 僕はゆっくりと 瞼を落とした。 死にたいほどの夜 「大きくなったら、 なにになりたい?」 「んとね、… お花屋さん!」 昔は、どうとでも 言えた。 幼かった自分には、 世の中のことなんて 何も分かってなかった。 それは、“夢” だったから… 少しずつ歳を重ねて 得るものと言えば、 無駄な知識と人間の裏。 失われていくのは、 時間と希望に満ちていたはずの夢を抱く気持ち。 そんなことを ふと思い浮かべて、 横にしていた身体を 起こし立ち上がる。 「………………」 キッチンへと 足を向けて、 冷蔵庫を開け ミネラルウォーターの ペットボトルを手にとる。 程良く冷えたそれは、 渇いていた喉を潤して 体内へと流れ込む。 「………………」 濡れた唇を 腕で拭っていると、 暗闇の中で怪しげに 光るものが目に入った。 食器に紛れ込むように、 置かれたそれに ふと手を伸ばす。 「…出しっぱなしだった」 調理専用の 家庭用の包丁。 いつもは、流しの下の 棚にしまって あるはずなのに… 今日は、特番の テレビ番組があって 慌てていたから しまい忘れたんだ なんて、思いながら それを再び握り締めた。 「………………」 それが危険なものだと 分かっているはずなのに、 無意識のうちに触れる指先… 「…っ、」 鈍く光るその先端を なぞるように 指を這わすと、予想通り… そこからは、 真っ赤な血が 滲み出てきた。
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