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店のカウンターの奥から、声が聞こえた。
クロスは魔剣が刺さっている土台を通りすぎて、カウンターの奥を覗いてみる。
そこには、木造の椅子に座って、優雅にレモンティーを飲んでいる老人がいた。
白髪混じりの髪に、レモンティーが激しく合ってない。
そんな異様な老人を凝視しながら、クロスは訊いてみた。
「おじさんが……この店の店主か?」
「いかにも。俺がこのボロい店の店主だ」
自分で自分の店がボロいと認めた老人。
クロスは困ったように頬を掻いた。
「え~と、あの紅い魔剣もおじさんのか?」
「いかにも。俺が昔使っていた魔剣だ。銘は『グラビィティー』だ。カッコいいだろう?」
「昔使っていた!?おじさん、魔剣が使えたのか!?」
その問いに、おじさんは立ち上がり、クロスに近づきながら答えた。
「いかにも。グラビィティーを造ったのも俺だ」
──つまり、このじいさん、ソーサラーなのか?
クロスの目には、足下がおぼつかない状態の老人が映っている。
──信じらんねぇ……。
「貴様、信じとらんだろうが」
「いや、そんなことは」
ギクッとしたクロスの後ろから、バリスの声が響いた。
「おはようございます、リユールさん。今日もレモンティーですか?」
「いかにも。バリスよ、今日は起きるのが早いな。何かあったのか?」
どうも知り合いのような二人を、クロスは黙って見ていた。
バリスとリユールが会話している間に、もう一回あの魔剣を見てこようかなと思い、クロスは土台に近づいた。
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