第三夜 血飛沫の舞い

4/31
9151人が本棚に入れています
本棚に追加
/256ページ
ジェリスは動くはずないギレスの身体を跨ぎ、再び歩く。 血だらけの廊下などには目もくれず、前に向かって。 今は夜らしい。 微かな月明かりが、今となっては数少ない窓ガラスから差している。 ──ククク、今ごろアイツは砂漠で休んでる頃か。 そう考え、廊下の曲がり角を曲がろうとした。 だが、突如現れた人影に足を払われる。 体勢を崩したジェリスは、倒れる前に手を着いてクルッと横に回転する。 その勢いで人影の顔面を蹴り、そして体勢を立て直した。 「……いきなり、来るとはな。しかし、私はお前のそういうところ嫌いではないぞ」 「流石は主人様。あの不意打ちで倒れないのは、驚きました」 この場に似合わない女性の声。 媚を売っているようにも聞こえる。 女性は膝をつき、頭を下げた。 「バリスのところに行ってらっしゃったのですか?」 「ああ、そうだ。お前を取り替えそうと、親友を騙していた。アイツのお前への愛は本物だな」 「……まぁ、もう私には関係のないことですわ。今の私にはジェリス陛下が居さえすれば、他はもう何も……」 ──調教は完璧のようだな。 一人微笑んで、ジェリスは女性を立たせた。 彼女の顎をクイッと上げ、至近距離でその整った顔を見る。 「見れば見るほど美しいな」 「……嬉しいです……陛下」 「先ほど、ギレスが亡くなった。その代わりをお前に務めてもらいたい。いいか?」 ジェリスが手を離すと、紅潮した顔でハイッと元気良く答えた。
/256ページ

最初のコメントを投稿しよう!