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ジェリスは動くはずないギレスの身体を跨ぎ、再び歩く。
血だらけの廊下などには目もくれず、前に向かって。
今は夜らしい。
微かな月明かりが、今となっては数少ない窓ガラスから差している。
──ククク、今ごろアイツは砂漠で休んでる頃か。
そう考え、廊下の曲がり角を曲がろうとした。
だが、突如現れた人影に足を払われる。
体勢を崩したジェリスは、倒れる前に手を着いてクルッと横に回転する。
その勢いで人影の顔面を蹴り、そして体勢を立て直した。
「……いきなり、来るとはな。しかし、私はお前のそういうところ嫌いではないぞ」
「流石は主人様。あの不意打ちで倒れないのは、驚きました」
この場に似合わない女性の声。
媚を売っているようにも聞こえる。
女性は膝をつき、頭を下げた。
「バリスのところに行ってらっしゃったのですか?」
「ああ、そうだ。お前を取り替えそうと、親友を騙していた。アイツのお前への愛は本物だな」
「……まぁ、もう私には関係のないことですわ。今の私にはジェリス陛下が居さえすれば、他はもう何も……」
──調教は完璧のようだな。
一人微笑んで、ジェリスは女性を立たせた。
彼女の顎をクイッと上げ、至近距離でその整った顔を見る。
「見れば見るほど美しいな」
「……嬉しいです……陛下」
「先ほど、ギレスが亡くなった。その代わりをお前に務めてもらいたい。いいか?」
ジェリスが手を離すと、紅潮した顔でハイッと元気良く答えた。
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