第三夜 血飛沫の舞い

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ハグルアは黒剣を掴まえ、ジェリスを探す。 前方を探してもいない。 ──だとすれば、後方か? 「クククッ、遅いぞ」 そう思い、振り返った直後。 ジェリスの声が聞こえ、無意識に剣を後ろに振り切る。 甲高い金属音が鳴り響き、火花が散った。 ハグルアはそのまま空中で二閃、三閃して、ジェリスと一緒に地面に降りた。 「ふむ。今度は吹き飛ばされずにすんだか。この前と比べるとだいぶ成長したな……。だが、まだクロスの副官に勝てるレベルじゃない。もっと力をつけろ」 肩で息をするハグルアに比べ、ジェリスは息一つ乱さずに乱れた服を整えていた。 歴然とした力の差を見せつけられ、ハグルアは歯痒かった。 ──速く! 速くこの帝王を殺して村に帰らなければ! 誰が妹の看病をするんだ! たった一人の肉親の為に、ハグルアは力を付けるしかなかった。 そして、不敵な笑みを浮かべる憎き帝王を殺すことしか。 「よし、ハグルアはもういいだろう。次はカーネリウスだな。」 大剣を納め、修練場を後にするジェリス。 その後ろ姿はあまりに無防備で、今なら…… 「ハグルア」 黒剣を握る手に力を込め、まさにジェリスに突っ込もうとした瞬間、ジェリスに名前を呼ばれた。 仕方無く、返事をする。 「何でしょう?」 「今はまだ、お前に私は殺せないぞ。お前がいくら私の隙をついたとしてもな」 思わず、帝王の言葉に絶句したハグルアだった。
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