< 八尾弦徳 >

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 やがて背が結界から離れ、力無く両手をダラリとさせながら前に一歩二歩と進ませる。電撃に焼けた体からは、バーベキューのいい匂いと白い煙が靡いていた。  すると被るヘルムがパカリと真っ二つに割れて接がれ落ち床に転がる。弦徳が、九十九神のヘルムを失い素顔を現す。その表情は、苦悶そのもの。白目をむいて、半開きの口からも煙が上がっていた。  タケシの攻撃を立て続けに喰らった弦徳が、ついにノックダウンを許してしまう。そのままバタリと前のめりに倒れ込んだ。地面にたまった熱が、それに煽られる。 「こ、これが超人……」  倒れた弦徳が、頬を地に付け囁いた。 「こうなったら……、こちらも限界を超えるか……」  囁きの中に覚悟が秘められていた。刀を支えに立ち上がる。タケシはそれを待っていた。  弦徳は、立ち上がると杖にしていた武具を見る。今握るサーベルは虚弱すぎだ。あまりにも脆弱だった。臀部に生えた八種八色の尾。グリーンサーベルから紫の日本刀へと持ち替える。  ファイナルウェポン武装。  今宵最後の八本目。  刀身の紫が、弦徳のすべての気を染め替えていく。柄を握る腕が紫色に変わり全身へと広がっていくと、漆黒が紫のカラーチェンジをどける。鎧だけではない。各種の刀や剣を握っていた八本の尻尾も紫色へと変色していった。  まさに八色から一色への統一。  しかし、弦徳の表情は優れない。顔色が青ざめ唇もプール上がりのように紫色へと変わっていた。流す汗も冷たい。その冷たさが空気にも広がり、一度加熱された結界内の空気を徐々に冷ましていく。
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