< 八尾弦徳 >

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 弦徳は苦痛に耐え顔を歪めるが悲鳴は上げない。代わりにサーベルの柄を上からタケシの頭に落とす。  脳天へと迫る柄のハンマーに、タケシは両膝を伸ばしながら背丈を戻し、廻し受けで弦徳の腕を外へと払い除ける。そして顎へと掌打を入れつっぱり押し上げる。  弦徳の視線が強制的に上を見せられ、ドームのライトをぶれながらも直視した。  赤いタケシの姿が弦徳の視界から消えた。弦徳の上半身が、がら空きになる。ノーガード。そこをタケシが容赦なく攻め立てた。 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ!」  テンポ良きつるべ落としの四連中段正拳突き。肺が振動して呼吸が乱れ、背中から衝撃が突き貫けていくのが熱を持つ空気に映る。漆黒の胸に刻まれた亀裂の幅が更に広がると、弦徳が屈辱に堪えかねて呻き声を溢した。 「ぐぐぐぐ……」  無意識だろうか。弦徳の左手が気配もなしにタケシの肩を鷲掴みにした。仮面の奥で瞳が輝く。反撃。 「でぇぁあああ!!」  気合の篭もった怒号。感情が仮面の下から伝わってくる。だが、冷静に対処を見せるタケシ。 「はぐぅぅっ!」  突き上げる掌打が、タケシの肩を掴んだ弦徳の肘に打ち込まれる。衝撃に肘関節が伸びきり、ビシッと、骨が軋む音を鳴らす。爪を立てたまま弦徳の腕が、タケシの肩から外れたが、その手は未だに虚空を掴んでいた。  更にタケシの強打。弦徳の下顎が、上顎へと激突する。タケシのアッパーカットが炸裂し、周りの空気が噴火するように下から吸いこまれ上へと流れた。弦徳の体が僅かに浮くと、その身に無重力感を錯覚として与える。  顎先から亀裂が仮面の表面に走っていった。その亀裂はまるで、アッパーのダメージが、顎先から脳天へと抜けていくように見えた。  更に顔面を狙って、タケシの肘鉄が打ち込まれ脳を揺らす。ハンマーというより斧だった。  丁度、鼻の真上に叩き込まれた肘鉄が振り切られると、弦徳がふらつき一歩二歩と下がった。そこにタケシが飛び後ろ回し蹴りで追いかける。流れるコンビネーションの追い討ち。踵が直撃して弦徳の黒い体を脚力で跳ね飛ばす。  飛ぶ弦徳の周りの空気が、蹴りの威力に流れのトンルネを築く。弦徳はそのまま結界の壁へと激突して電撃のスパークを弾かせ、バチバチと音を立てて体を震わした。
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