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ダグラール家は、都の中心部を流れる千代川の川下に構える、都最大の銀行の所有権を握る家系だ。
彼方此方の企業からの信頼を得ている為、都の財政をも影から握っていると言っても過言ではない。
其のダグラール家の娘、珈頭黎已奴は都一人気のモデル、銀行の看板として活躍していた。
彼女の美しさ。
正しく絶世の美少女。
都の何処を歩いても、彼女の愛らしい笑顔を見ない瞬間など無い程だ。
活動拠点としている都のみならず、下町でも彼女の人気は広がりつつあった。
「交番にも絵板があった・・・」
しみじみと語るシモン。同僚があまりに熱狂的な愛好家で、絵板の他、彼女の白黒写真が張られたハンケチや手ぬぐいをシモンに見せびらかせてきた事を思い出した。
「まだ年若いのにな」
「うんうん、可愛い娘さんだったのに。あんな惨い・・・・」
「惨い?」
シモンが尋ねると、叉之伍郎はしまった!!とばつの悪い顔を零した。
「いやいや、何でもないさ」
「別にあっしは愛好家ではないのだから」
「僕がそうなんだよ!!」
思わず呆れた。
赤面し、同僚と同じように彼女の写真入りハンケチを見せ付け始めた叉之伍郎。
どっと溜息を吐き出した。
「例えそうだとしても、あんなに待たせた償いだ。話しておくれよ叉之伍郎殿」
「いやいやシモン君!!お茶を一杯奢ってあげているだろうに!!」
「足りない足りない。ほら、とっととお話しなさい」
にんまりと笑い、搦手を掴んだ顔をする。此れは話すまで離してはくれないと観念し、断腸の思いで話し始める事にした。
「先程、時計が唯一の遺留品と話したね」
「はいはい、それで」
せっかちに手招きし、話を催促するシモンに、叉之伍郎は溜息を付いた。
こちらは話すだけでも辛いのよ、と間接的に伝え
「彼女、此の中にいたんだよ」
一息で言ってのけた。
「幾つものパーツに分けられてね」
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