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珈頭黎已奴はピクリとも動かず、ショーウインドーの人形のように椅子に座ったまま。
青いセルロイドのおめめはパチクリと動き、ヒグラシの遠音を追いかけまわす。それだけであった。
鬱蒼とした静寂である。
何時もやってくる自動的子供や、人工栽培された弟達がいないのは、どこか物寂しい。
珈頭黎已奴は何も言わないが、ヒグラシは歌っていた。ただ歌っていた。
「オレが歌わなきゃ、誰が此の空気を繋ぐ?」
緋色の背広だった。
低いテノールを。
バーの身なりの良いロマンスグレーみたいな。
追われに追われ、ヒグラシは歌い続ける。
丁度6時の鐘が鳴り始めるまで。
ぼーん
ぼーん
ぼーん
オレが歌わなきゃ、だ
ぼーん
此の空気を
ぼーん
繋ぐ?
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