小さな幸せ

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
ホーッホケキョ 立春をとうに過ぎたとはいえ、まだまだ春という季節には遠いと思っていたある日。 晴れていた。 大学は休みだった。 予定はなかった。 ベランダで、洗濯物を干していた。 そんな、朝だった。 「ホーッホケキョ」 俺は口笛が上手い。子供の頃は、よくこんなふうにウグイスの真似をしては、通りすがりの大人に誉められたものだ。 ホーッケキョケキョ 正直、少し驚いた。 何てことだ。 俺のモノマネは、野生の鳥でも信じさせられるらしい。 かなり嬉しくなった俺は、動かしていた手を止めてその身をタオルの影に隠した。 「ホーッホケキョ」 ホーッホケキョ 申し合わせたように、その返事が来たのはすぐだった。 春の始めのウグイスは、仲間の鳴き声お手本に、正しく鳴こうとするという。 「ホーッホケキョ」 …ホーッホケキョ 冬明けの、小さな幸せだった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!