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ホーッホケキョ
立春をとうに過ぎたとはいえ、まだまだ春という季節には遠いと思っていたある日。
晴れていた。
大学は休みだった。
予定はなかった。
ベランダで、洗濯物を干していた。
そんな、朝だった。
「ホーッホケキョ」
俺は口笛が上手い。子供の頃は、よくこんなふうにウグイスの真似をしては、通りすがりの大人に誉められたものだ。
ホーッケキョケキョ
正直、少し驚いた。
何てことだ。
俺のモノマネは、野生の鳥でも信じさせられるらしい。
かなり嬉しくなった俺は、動かしていた手を止めてその身をタオルの影に隠した。
「ホーッホケキョ」
ホーッホケキョ
申し合わせたように、その返事が来たのはすぐだった。
春の始めのウグイスは、仲間の鳴き声お手本に、正しく鳴こうとするという。
「ホーッホケキョ」
…ホーッホケキョ
冬明けの、小さな幸せだった。
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