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勘違い
間違ったウグイスの声など聞かなくなったほど、確かな季節になった。
毎朝の習慣。
鳥との通信。
いつ見破られるかなど問題ではない。
ただその鳥は、いつでも同じ鳥で、それが面白いのだ。
しかしその裏に、もっと面白く、同時に小さな落胆を起こさせる事実があったことを、俺達は知らなかった。
「ホーッホケキョ」
「ホーッホケキョ」
いつもと同じベランダ。
あの日と同じ天気に、桜が舞っていた。
そんな、事実だった。
その鳴き声は本当に近くから聞こえたから驚いたのだ。
長いウェーブの髪が、揺れた。
瞳と瞳がかち合った。その飾らない桜色の唇からは、口笛の残り香が漏れていた。
俺が言葉も出せずにいると、女性は一瞬硬直し、見る間に顔を赤くした。
そして長いスカートに躓きそうになりながら、俺の前から逃げ去ったのだ。
俺は湿った洗濯物に張り付いた桜の花びらをつまみとりながら青空に呟いてやった。
「なんだ。そういうことか」
ウグイスの返事は来なくなった。
散歩中にウグイスがとまっているのを見つけて鳴いてみた。
「ホーッホケキョ」
鳴き終わらないうちに鳥には逃げられた。少し、へこんだ。
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