御神木の里

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御神木の里

綺麗な石… 黒くて‥淡い。 中に真っ白の線が 幾つも入っている。 ‥御影石‥ そう言うんだって。 いつもの"出っ張り岩の丘"に寝そべって、僕は掌に納まる程のその石を朝日に照らしていた。 「……またそれ?」 上から覗き込んで馬鹿にした様に含み笑いをするのは同じ里に住む女の子。 「そんなに好き?その石」 僕の三つ上だからって、彼女はいつも僕を子供扱いして見下すんだ。 彼女が僕の隣に座ると僕は寝転んだまま、膨れっ面で背を向けてやった。 「知らないの?それ、 お墓の上に乗せる石よ?」 「……知ってる。」 …………知らなかった。 「あたし、そんなのより ずっと綺麗な石持ってるの」 得意気に言う彼女は、拳の中から半透明で褐色に光る石を出した。僕は起き上がってその石を見た。 朝日に透けてキラキラと輝いている。見た事も無いその石は、魔法みたいで、僕は目を逸らせなかった。 「綺麗でしょ?」 「…うん」 今度はニッコリと満足気に笑う彼女。 「この石はね、 不思議な石なの。 持ってる人を 幸せにするのよ。」 「何て石なの?」 「…それは知らない」 僕はまたしかめっ面をしてみせた。 「きっと! まだ誰も知らないのよ! あたしが一番に 見つけたの。 だって、こんなに綺麗な石 見た事無いもの。」 少し焦った様に言う彼女は、途中からまた得意気に見下していた。僕は呆れた態度でまた寝転がって自分の石を眺める。 「小二郎、聞いてるの?」 小二郎…は、僕の名前。 彼女は僕を揺すったけど、うんともすんとも言わない僕の肩を「もうっ!」と腹癒せに一つ叩いて落ち着いた。 朝焼けに染まる空。"出っ張り岩"から見る森は、静かで、少し神秘的。何処かでまだ鳩が鳴いてる。 知らない鳥の声も聞こえる。 まだ誰も、 僕を迎えには来ない。
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