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僕は暫く俯いていた。
猛は書物庫の事が覚めやらない様子で、両手を上げて、本の中にあった挿絵の真似をしだした。
「われは龍の巫女なり!
土龍神 石龍よ!
あらわれたまえ!」
蓮が眉間に皺を寄せたまま、ポカンと猛を見る。
成太は依然、馬鹿にして腕組みし、面白いものでも見物するように笑いを堪えていた。
「猛…?」
葵の声も聞かず、猛は自分の世界に入っていた。
「われは巫女なり!」
ピョンピョンと飛び跳ねては天に両手をめいいっぱい上げて叫ぶ猛。
「猛!止めろ」
猛は蓮の声にも聞く耳を持たない。
「龍よ!こたえたまえ!」
真剣この上ない。
「どうしちゃったの?猛‥」
葵が笑い混じりに僕達に聞く。
蓮は呆れたように溜息混じりに首を傾げる。
「‥さあ?」
「ホラ吹きのキチガイが
移ったんだな」
成太がまた馬鹿にすると、蓮はまた無表情のまま成太を睨んだ。
「成太、もう止めて。」
「真実さ!」
成太が神主様を真似て、人差し指を立てた。
その直後、蓮が成太に走り、成太の胸倉を掴んだ。
「蓮!!」
葵と僕が立ち上がる。
「ホラ吹きは…
里の大人のほうだ。」
蓮はまだ怒りを抑えているみたいだった。
「俺も同感だね。
お前の母親なんか特に
最高のホラ吹きだ!」
直後、僕と葵が止めに入ったけど…流石に今ので終わりだと思った。
蓮は成太に馬乗りになって、何度も何度も顔を殴り付けている。
「お前に母様の何が解る!
汚ぇその口!
二度と開かなくしてやる!」
途中でバキッと生々しい音がした。
僕は蓮に体当たりして、成太と蓮を引き剥がした。
「…ぁ‥鼻が…
俺の鼻が………!!!」
成太の鼻は折れて血塗れになっていた。
成太は顔の下半分を両手で隠して、悲鳴を上げながら逃げる様に走って言った。
一つおかしかった事は、蓮と成太の一連の騒ぎがあったにも関わらず、猛が未だに脇目もくれず、龍を呼び続けていた事だった。
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