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動き出した歯車
その夜、蓮は母親に連れられて成太の家に謝りに行った。
成太の母親は鼻を折って帰って来た成太を見て発狂してたらしい。
当然門前払いだったそうだ。
蓮とおばさんが帰って来ると、おばさんは蓮を静かに叱っていた。
「蓮‥
原因を話してくれないと
解らないでしょう?」
「………………」
蓮は黙っておばさんを見つめていた。
「何があったのか
知らないけど、
あなたが理由も無く
あんな事するなんて‥
お母さん思えないの。」
蓮はまだ黙ったまま全く表情を変えない。
「蓮、」
暫く沈黙が続くのを、僕と猛は襖(フスマ)の隙間から覗いていた。
おばさんは溜息を吐いた。卓袱台(チャブダイ)の上に肘をついて、頭を抱えている。
「‥あなたって子は‥
あの人にそっくりね。」
「誰にそっくりだって?」
風呂上がりのおじさんが、手拭いで頭を拭きながら蓮とおばさんの間に座った。
「蓮、
派手にやったんだってな?」
おじさんが子供の様な悪戯顔で蓮を見る。
おじさんはいつも、森の奥の山小屋で家畜の世話をしていて、滅多に帰って来ない。
でも、おじさんは、凄く家族思いな父親だ。
今の時代では珍しい程温厚で、頼もしくて、家族の為なら何でもするような、理想的な父親だった。
蓮は相変わらず黙っている。
「蓮、
今日の様な事が
お前の信じた行動なら
そんな風に、
堂々としてていい。」
「あなた、
あなたがそうやって
甘やかすから…」
「だがな、
もし後から自分の信じた
行動が間違っていたと
気付いた時は、
どんなに遅くても良い。
心から謝るんだ。
約束出来るか?」
蓮はおじさんに向かって力強く頷いた。
「よーし!
それでこそ俺の息子だ!」
おじさんは蓮の頭を大きな手でくしゃくしゃに撫でた。
「相手は酷いザマだったか?」
「鼻を折ってやった。」
「そりゃいい!
牛小屋の掃除も
楽しくなるぞ!!」
蓮とおじさんは声を上げて笑った。
おばさんは呆れた風だったけど、一緒に笑っていた。
僕と猛も襖の内側で声を殺して笑った。
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