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次の朝、おじさんは成太の父親と、牛を売りに隣町へ出かけた。
おばさんは必要以上に心配しながらおじさんを見送る。
「気をつけて下さいね…」
「なぁに、大丈夫さ。
牛を売ったら
すぐに帰って来る。」
隣町の馬車の事は、大人達も知ってるんだろう。
成太の父親は里一番の飲んだくれで、酔うと何をするか解らないガサツな所もあったけど、普段は農作を手掛る普通のおじさんだ。
おじさんを四人で見送った後、僕と蓮は、支度を終えて家の前で猛を待った。
猛は何故か、大きな布を体に巻いて、それに帯を締めてやってきた。
布が足に絡まってよろめきながら、やっと猛は僕達の前まで来た。
「…………殴られてぇの?」
蓮が冷静に言った。
猛はブンブンと首を横に振った。
多分、龍の巫女のつもりなんだろう。
蓮は溜息を吐いて猛に言った。
「着替えて来い。」
猛はまたブンブン首を振った。
「着替えて来いよ!」
今度は強めに怒鳴った蓮。
猛は涙目になってふるふる首を振った。
「…行こう。」
蓮は呆れて僕の腕を引っ張り、足早に御神木へ向かった。
猛はすっこけながら半ベソをかいて僕達の後に付いてくる。
僕は蓮に腕を引っ張られながら、後ろを振り返り振り返り見た。
猛は一生懸命付いてくる。だけど一向に追いつく気配は無かった。
御神木へ着くと、葵が既に神主様と僕達を待って居た。
「……猛は?」
猛の姿が無いのに気付いた葵が僕達に聞く。
「もうすぐ来るんじゃね?」
蓮は後ろを向きもせず神主様の前に座った。
暫くすると、鳥居の方から白い布を体に巻き付けた猛が、息を切らしながらやってくる。
「…………何あれ…」
葵が猛を指差して、蓮にしかめっ面を向ける。
「知るか。」
蓮はフイと顔を背ける。
神主様は落ち着いていたけど、不思議そうに猛を見ていた。
「おまたせ!」
近くまで来ると、猛は泣きやんでいて、ワクワクした様子で神主様の前に座る。
僕と葵は顔を見合わせて、小首を傾げながらその場に座った。
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