動き出した歯車

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その夜、神主様が僕達の家に来た。 御通夜と御葬式が二夜に渡って行われた。 おばさんは、終始親戚の人に支えられながら、手拭いを放せずに居た。 意外にも猛だけは、母親を気遣ってか、悲しい顔一つ見せ無かった。 それからというもの、蓮は毎日、庭の入口から、只々遠くを見つめるだけ。 「行かない。」 僕達が神社へ誘っても、これだけだった。 仕方なく、暫くは三人だけで神社へ通った。 ある日神社からの帰りに、葵が僕の腕を引っ張って立ち止まった。 「小二郎、 出っ張り岩へ行かない?」 普段と変わらない様子で言われたから、僕は首を縦に振って、猛を呼ぼうと後ろを向いた。 ところが直ぐにまた腕を掴まれて振り向かされる。 「前みたいに、 二人だけで行くの。」 僕は訳が解らないまま少し考えて、また首を縦に振った。 猛が少し向こうで立ち止まって待ってたから、僕は猛の傍まで走って、先に帰っとく様に言った。 猛が走って帰っていくのを見送った後、僕達二人は出っ張り岩へ向かった。 出っ張り岩へ着くといつかの時の様に二人並んで座った。 僕達は沈み始めた夕日を見てお互いの石を取り出す。 僕は祠の石の事を思い出して、ハッとして石を握ったまま腕を懐に押し込んだ。 「……どうしたの?」 「…何でもない。」 葵は僕の方をじっと見ている。 僕は前方を見たまま、振り向かないようにした。 「小二郎の石、見せて。」 「……………」 僕は黙った。 だけど、葵はなんだかいつもと様子が違う…。 葵は、黙ったまま僕を自分の方に向かせた。 懐に入れたままの僕の手を掴んで… ゆっくりと僕の拳を出す。 一度だけ目を合わせて… 葵の指が ゆっくり僕の指を開く… 不思議な感じだった。 また石をみたら… きっと葵も気付いてしまう。 僕は怖かったけど、 直ぐにでも腕を引いて… 逃げ出したかったけど、 それが出来なかった。 僕は葵をじっと見た。
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