動き出した歯車

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葵は僕の掌の上に乗る御影石をゆっくり見て、僕と目が合った。 「この石、どうしたの?」 時間がゆっくり流れる。 自分からは絶対に言う筈の無かった言葉が、喉奥に少し詰まって… 「御神木に… 捨てられた時に、 僕の懐に入ってたって…」 ……流れ出た。 「……そう…」 葵が僕の手を離して、ニッコリ笑った。 「小二郎は月陰なのかもね。」 ……不思議だった。 葵は怯えもせず、笑っている。 意味が解らなくて、僕はしかめっ面をした。 「いいじゃない。」 膝を抱えて夕日を見る葵の横顔を見る。 「小二郎が月陰なら 私が将軍達から 守ってあげる。」 葵は僕を振り向いて続けた。 「神主様と二人だけで 話をしたときに… 教えて貰ったの……」 僕は俯いて静かに耳を澄ました。 「私の母様は石龍の巫女」 僕は思わず顔を上げた。 「私は… 巫女族の血を引く末裔よ」 僕は無駄に二回瞬きをした。 「まだ石龍に 選ばれた訳でも無いけど… この里では唯一の生き残り。」 「……末…」 言葉にならなかった。 薄々、そんな期待はしてたけど、それは夢を見るくらい薄い感覚で、言われただけでは何となくしっくりこなくて、僕の頭の中が、全く機能しなかったからだ。 「大丈夫よ小二郎。」 葵が僕の手を両手で包んだ。 「私が小二郎を守るから。 …きっと石龍に認めて貰って 巫女になってあなたを守る。」 夕日はさっきより沈んで、僕達の頬を赤く照らす。 「………僕も……守る。 強い月陰になって… ……葵を守るよ!」 僕の中で、何かが変わったのが解った。 葵が打ち明けてくれた事… それは僕が心の何処かで引っ掛かってしょうがなかった苦しい気持ちを、無くしてくれた様な気がした。 僕が感じていた… 『月陰』の定…。 大きな未来が、いつか僕の前にやてくるんじゃないかっていう不安。 きっと… 葵もそんな気持ちを抱えてたりしてたのかって思うと… 一人じゃない気がした。 僕は葵の手を握った。    image=54415422.jpg
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