動き出した歯車

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僕はお祖母さんの眠る直ぐ傍に腰を降ろして、お祖母さんの手に触れた。 「泊まっておいき。」 お祖母さんは、首を小さく二、三度縦に振って、それだけ言うと、直ぐに鼾(イビキ)をかいて眠りだした。 葵は僕に女者の着物と帯紐を貸してくれた。 「これ着て。」 僕がそれに着替えると、葵は大きな布団の中に詰めて入った。 「ここに寝て。」 僕が言われるままに、そこに仰向けに寝ると、葵は掛布団で僕を包んだ。 「……冷たい」 葵は立てた腕を枕にする様に、僕の方を向いていて、指先で頬に触れてそう言った。 僕の濡れた髪を、何度か梳いていたのを覚えてる。 布団の中はあったかくて、葵の匂いがいっぱいした。 甘くて… 優しくて… 懐しい… なんだかそれが、母様の匂いみたいで… いつの間にか僕は、ぐっすり眠ってしまった。 次の朝、お祖母さんは眠っていたけど、僕と葵は同じ頃に目が覚めた。 僕は昨日の出来事を全部、鏡台で髪を梳く葵に話した。 「そう……きっと、 気が滅入ってなさったのね。 おばさん、辛い事が 続いたじゃない?」 僕は襖を背凭れにして座ったまま、黙って足先を見つめた。 葵は櫛(クシ)を置くと玄関の戸を開けて外の様子を確認した。 「雨、止んだみたい。 ……もう帰る?」 僕は葵の傍迄来て首を横に振る。 「……蓮よ、隠れて。」 向こうから走ってくる蓮の姿に向けて、表情を変えずに葵が小声で言った。 僕は直ぐに襖の裏に隠れた。 「あら蓮、おはよう。 早朝から忙しいわね? 女に会いに来るなんて。」 葵が業と憎まれ口を叩く。 「…小二郎は? 居るんだろ!!小二郎!」 蓮が葵の家の中を覗いて叫ぶ。 「失礼ね! 礼儀を弁えてよ。」 葵は蓮を前にして腰に両手を掛ける。  
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