【第三章】 雨と箱庭

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ザァァァァァ…… 雨が、降った。 「……また、泣いているのかい?」 世界は素直なもので、今の言葉を否定するかのように、一瞬だけ雨が止む。あぁ、悲しい訳ではないのか。 「じゃあ、なんで泣いているんだい?」 問いかければ、また雨は降りだした。世界が言葉を喋ることを拒むかのように。 ふと、心が軽くなった自分がいた。黒の翼を動かせば、世界の涙はパラパラと落ちてゆく。その度に、暖かな気持ちになる。 「……あぁ、そうか」 あんたは優しい奴だったね。僕のこと、いつだって思ってくれている。この涙は、僕の代わりに流したものなんだね。余計なことしてくれちゃうなぁ。 「消えても、あんたは変わらないんだね」 けれど、あんたが泣いたということは世界の歯車が狂い始めたということ。止まった世界が、再び動きだすということ。 早く手を打たないと、取り返しのつかないことになる。 「……もう、大丈夫だから、泣かないでよ」 すると雨はピタリと止む。雲の切れ目から、太陽が覗いている。 「虹が出るかもしれないね。あんたが好きだった、この世界の虹が…」 もう二度と、拝めないと思ってたよ。
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