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「あ…」
「なんだ?まだ何かあるのか?」
リクトの呟きにため息をもらすと、いきなり黒の鳥は羽ばたいた。
「な…ッ」
「大変だ!さっきの化物、あの子に向かってる!」
「あの子…?」
いつも冷静なリクトが乱れている。リクトとは逆に冷静になっていく思考を更に落ち着かせ、俺はリクトに尋ねた。
「あの子って、誰だ?」
「いいから早く追いかけて!あの子が死ぬ!」
「……チッ」
せっかく九死に一生を得たというのに、自ら化物を追わねばならぬなんて。馬鹿馬鹿しい。けれど、その“あの子”に興味を持つ自分もいた。
腰にまで到達している草を掻き分けながら化物を追う。道案内にリクトが先に進みつつ「早く」とせかす。
やっと草がなくなり、開けた場所に来た時だった。
「キャァァァァアア!!」
「ッ!?」
女……?まだ少女か。何故人間がこんな所にいる?いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
少女は大樹の影に隠れ、化物を見ている。どうやら足が怯んで動かないようだ。となれば、この化物の息の根を止めるしかないか。殺生は好まぬ質(たち)だというのに。
バサバサバサッ!
「リクト!?」
リクトが化物に向かって行った。そのままリクトは化物の目をクチバシでつつき、目を潰そうとした。
一際大きな叫び声をあげた化物は、目をおさえながらその場に崩れ落ちる。俺はその隙を狙い、生物の急所である喉を裂いた。
すると、硝子が割れるような音が辺りに響き、化物は忽然と姿を消した。
「……死んだ、のか?」
こんな死に方をする生き物は始めてみた。
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