猫と別れ

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妙な夢を見た。 白い世界。 何もない。 ただ家族はいた。 父と母は気持ち悪いくらい仲が良い。 いつもは顔を合わす度に喧嘩ばかりしているのに、どうしてと聞く。 二人は笑顔で答えた。 剛が帰って来たからだと。 ただいま。 声が聞こえた。 剛の声だ。 声のした方を見ると、人影が立っていて。 ナァ…… そこで、夢は覚めてしまった。 ナァ。 ぽむぽむとほっぺを叩かれる。 ささみの肉球である事にはすぐ気づいた。 腹が減ってるのか…… 何とまぁ、朝から健康な事。 もうちょっと寝ていたいのだが、それは許してもらえないみたいだ。 無視を決め込んでもいいが、噛みつかれたりしたらたまらない。 仕方なく冷蔵庫を物色する。 しかしささみは昨日のでおしまいでないから、何をあげればいいのやら。 やはり、ちゃんとしたキャットフードをあげないと健康に悪いかな。 ナァ。 ささみが足下で体をすり寄せて来る。 分かった分かった。ささみには少し我慢してもらって、近くのスーパーにキャットフードを買いに行く事にした。 小雨だが、まだ雨は止んではいない。 スーパーに入り、ペットコーナーを見て息をのむ。 結構、キャットフードは高いものだ。 買わない訳にはいかないので、仕方なくレジへ。 余分なものを買ってしまう前にスーパーを出た。 出た所で、見知った女性の姿。 よっ、とあちらが手をあげるので、こちらも手を振って応えた。 弟君の事は、ご愁傷様…… その女性、千春は小さく頭を下げた。 千春は近所でピアノの講師をしている、大学の同期だ。 ありがとう、と千春に返す。 千春も何回か弟と顔を合わせていたから、きっとショックだったに違いない。 今、どうしてるの。 沈黙に困ったように千春が話を切り出す。 そうだ、ささみ。 ささみ……と千春が首を傾げる。 昨日拾った猫の事だと説明する。 早く帰ってやらないと、お腹を空かせているだろう。 千春が見たいというので一緒にアパートに戻る事にした。 やられた。 アパートの壁の一部が引っかかれてボロボロになっている。 ナァ。 ささみは早くご飯をよこせと言わんばかりに鳴いた。 可愛いね、と千春。 確かに可愛い。だがこういうのは小悪魔と呼ぶべきかもしれない。 そうだねと千春が笑った。 でもお葬式の帰りに拾うなんて、と千春。
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