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また夢を見た。
再び白い世界。
剛が前を走っている。
追うけども追いつけない。
剛、待てよ。
行くなよ。
ぽむ。
また、お前か。
ぽむぽむするなよ。
仕方ないのでキャットフードを出す。
そしてがっつく。
もうささみが来て三日経ち、これは日課みたいになった。
剛……
また剛の夢を見るなんて。
剛が死ぬ前までは、夢にあいつが出てきたかどうかもあやふやだったのに。
今ははっきりと夢を記憶している。
人は忘れる為に夢を見るのに、変なものだ。
そういえば、剛がいつか言っていた。
全力で走ったら、気持ちいいんだろうな。
剛は喘息持ちだったから、それは最後までかなわないで終わってしまったけど。
それは、走れる人間にとっては考えもしない事だろう。
誰もが出来て自分には出来ない事を、剛はただただ、最後まで夢見ていたに違いない。
と、インターホンが鳴った。
宅配のようだ。
届いたのは小さなダンボール箱。差出人は母だった。
中には乾物が色々と入っている。たまに母が送ってくれのだ。
乾物……流石にささみは食べないよな。
とベッドを見るがささみの姿がない。
机の下や、椅子の上にも。
どこにもいない……
まさか、さっきドアを開けた時。
宅配人とのほんの短いやりとりの間に、僅かなドアの隙間から出て行ったのか。
窓から見上げた空は、雨が止んでいるもののまだ曇り空。
いつ再び降り出しても不思議ではない。
あいつ……
考えるよりも先に動いていた。
適当な服に着替え、アパートを飛び出した。
止んでいたと思われた雨は、ほんのパラパラだが降っていた。
走る。
なぜか、よく分からない。
方っておけばいいではないか。気まぐれで連れて帰った猫だ。
あいつも自分から出て行った。
あいつも本当は自由なのが良かったのではないか。
だから今走る理由なんて。
三つ目の横断歩道で信号に引っかかる。
まあ、信号がなくても息が上がってこれ以上走れないが。
帰ろうか……
心が弱音を吐く。
そういえば、剛が弱音を吐いたところを見た事がない。
なぜあんなにも病弱だった剛が、いつも笑ってられたのだろう。
何で今、剛の事を。くそ。
再び走り出す。
何も考えないように、梅雨の空気に溶け込むようにして。
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