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いない。
町のどこにもいない。
まず、猫一匹を決して狭くない町の中かから探し出そうとするのがまず無理だったのかもしれない。
真っ先に出会った公園を探したが、いなかった。その時点でもう手がかりもあてもなかった。
我ながらよく頑張った。
昼ご飯も食べずに四時間も探したのだから。
そう思いながらも、息を切らしたまま歩いて公園に戻った。
やはり木の下にはいない。
疲れがピークに達して、根の上に腰を下ろした。
するとまた、雨が強くなってきた。
何やってるの。
声にはっとなる。
目の前に傘を差した千春が立っていた。
寝てしまっていたのか。
数時間走っていたから、思った以上に疲れていたのかもしれない。
事の経緯を千春に話す。
すると千春はそっかと残念がった。
あれだけ探していないのだ。もうどこか遠い所に行ってしまったかもしれない。
ちゃんと鈴をつけないからだよ、と千春に叱られた。
でも我ながらよく頑張ったと思う。
たかだか猫一匹に、ここまで必死になるなんて。
もしかして、気に入ってたのかもしれないな。
いやもしかすると、剛の代わりにしてたのかもしれない。
両方かもね、と千春が笑う。
ナァ。
その時、上から何かが落ちて来た。いや降りて来た。
頭に滴が落ちて来る。
目の前に現れたのはささみだった。
何だ、上にいたのか。
それは盲点だった。
おいでーと手を伸ばす千春には目もくれず、ささみはこちらに向かって来た。
ぽむ
ささみは一度こちらの足に猫パンチして後ろを向いた。
何だと首を傾げていると、横から千春に顔を覗かれた。
元気出せって言ってるんだよ。
また恥ずかしい事を言う。
ささみが急に走り出す。あっと思った時にはもう姿は見えなくなってしまった。
あぅ、ささみ……
千春がいなくなった方に手を伸ばす。
自由が一番だよ、と千春が言いそうな言葉を口にしていた。
そうだね、と傘もささずに千春は木の下から飛び出す。
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