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四月二十五日、午後六時十五分、絹代はまっすぐ家に帰り、テレビの電源を入れた。コマーシャルの時間で、ディズニーのキャラクターがひとしきり商品の宣伝をしていた。その時、こめかみの筋肉がピクリと痙攣した。何か妙な予感がした。悪くもあり吉兆のようなものも感じた。そうだ、こんな時は飲みに行こう、それが一番だ、と着替えもせず目黒から山手線に乗って渋谷に出た。チラシ配りがチラシを強引に手渡そうとするなか、人にぶつからないように身を翻して、目的の「たらちね」に行くべく横丁に入った。一人の21,2歳くらいの、若い男が看板を持って、焼肉屋の前でそれを2,3回、回転させ立っていた。絹代はそれに目もくれず、さらに奥に入り、飲み屋に入った。カウンターに座り、私は一人で飲むのが好きなの、人々がワイワイガヤガヤやっているなかで孤立し、ひとりぼっちで、他人に親しみを感じるのが好きなの、別に会話を聞いている訳じゃない、無理して聞かない訳でもない、ただ音が物質として、身にぶつかってくるその存在感がいいのだ、と思いながら揚げだし豆腐をつまみ、レモン・チューハイを2杯飲んだ。隣で一人で飲んでいた中年の男が、かなり酔っ払って彼女に話しかけてきた。ひとりぃぃ、店を変えて飲み直さないぃぃ。彼女は、私はこんな中年のいやらしい生々しい親しさが、たまらなく嫌いだと思い店の主人に、おやっさん、焼酎一本ボトルで頂戴、とその酒豪ぶりを示し、中年の酔っ払いを追い払おうとした。中年は彼女の態度を見てすごすご、親父い、おあいそと金を払って店からふらふらと出て行った。彼女はタバコを一本口にくわえ火を点け、煙をその男の方へ吹きかけた。ざまあ見ろ、私みたいな旬の女に慣れなれしくしやがって、自分の脂ぎった顔を鏡で見ろってんだ、と思った。
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