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次の日、四月二十六日、午前十一時、僕は柔らかな日差しを浴び、目を覚ました。顔を洗い歯を磨き、鍋に水を入れ、お湯を沸かし、キャベツを切り、明星チャルメラを袋から出して、一緒に茹でてラーメンを作り、テーブルの上へ乗せ、カミュの「異邦人」の後半を読みながら食べた。延々と裁判の話でつまらなく、こりゃ駄作だな、と思い放り投げ、萩尾のところへでも遊びに行くかな、と思いついた。代々木で電車を降り、東に向かって10分歩いた。彼は三畳一間で紅茶を飲みながらラブレーを読んでいた。
「よう、昨日は何だよ、冷たいぜよ。」
「おう、お前も紅茶、飲むか? 」といって二番出しの、紅茶を入れてくれた。
「ソノ子のやつ、木谷と寝たといってたぜ。」
「あいつは馬鹿だよ。男なら誰でもいいんだ。盛りのついた猫みたい、狂っているよ。」
僕は彼らの性交している姿を想像してみた。それはおぞましいもので、今にもソノ子のあえぎ声が聞こえてきそうだった。
「俺、飯食ってくるよ、お茶でも飲んでな。」萩尾が出て行った。
彼の部屋は汚い。カップ麺の殻や、タバコの吸殻、汚れたコップやスプーン、飲みかけの牛乳、本などが散らばっている。隅には布団がたたまれ、皺くちゃのシャツがかかっている。小さなコンポにレコードが積んである。壁には水着姿の内藤よう子のポスターが貼ってあり、えもん掛けが何本か吊るされ、去年のカレンダーがそのまま残っていた。僕は畳の上にぶっ散らかされた本の一冊を取り頁をめくった。何なに、マクダフとマクベスだと、一体何のこっちゃ。訳が分からん。シェークスピアは何を考えているんだ。紅茶を一口飲み、タバコを吸うことにした。ハイライトは13本残っていた。本の頁をめくっていると一枚の写真がパラリと畳に落ちた。それはソノ子の写真だった。パトラ・カットの彼女は写真機に向かって微笑んでいた。そこへ萩尾が帰って来た。
「どうだ、これから木谷を脅しに行かないか。」
「そうだな、それもいいな。」と萩尾は拳の節を鳴らした。そして井の頭線下北沢にある、木谷のアパートへ二人で出かけた。木谷はまだ寝ていた。
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