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玄関前。彼女は、
「ただいま~」
と、元気よくそう言った。
が、出迎えは無いらしい。
「…お邪魔します。」
僕は靴を脱ぎ、ぼそりとそう言った。
「…此方です。」
彼女は静かにそう言った。
僕は、言われるがままに彼女についていった。
其処は、廊下の突き当たりの一室だった。
「ただいま、お母さん。」
ドアを開け、彼女はまた、元気よくそう言った。
僕は、それに少し違和感を感じた。
気のせいだったかも知れないし、そうでなかったかも知れない。
まぁ、どちらにしても僕には関係の無い事なのだが。
そして、彼女の目線の先には、少し窶れた様な、それでいて優しさは保っている、そんな感じの中年の女性が、ベッドに凭れ本を読んでいた。
「お帰りなさい、リン、…あら、お友達かしら?」
僕の方に目線を向け、優しくそう言った。
「えぇ、彼はシャムロック、画家をやっているのよ。」
と、彼女は僕の事を説明してくれた。
「どうも、夜分遅くに申し訳ありません、シャムロックと申します。」
僕は、ありきたりの台詞に、少し色をつけてそう言った。
「あらあら、ご丁寧に。」
本を閉じ、ニッコリと笑いそう言ってくれた。
「お母さん、彼、今晩泊めてあげても良いかなぁ?」
少し上目遣いで、申し訳なさそうに彼女はそう言った。
「どうぞ、どうぞ、こんなボロ小屋で良ければ、好きなだけ泊まっていって下さいな。」
「もぉ、お母さん!」
「ふふふっ。」
どうやら、快く受け入れて貰えた様だ。
この親方のやり取りを見ていると、何処か暖かく、懐かしい感じかした。
懐かしい…
覚えている限りでは、僕は、父とあのようなやり取りをした覚えなど無い筈なのに…
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