満月の見える部屋

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「陽当たりもよくて、とってもいい部屋ですね。」 部屋の掃除をしながら、彼女はそう言ってくれた。 本当によくしてくれる、お人好しとはまさにこの事だろう。 それとも、地上の人間は皆このように優しいのだろうか。 他者との付き合いを極力避ける、天界の連中とはえらい違いだ。 僕は、その好意にいささか悪い気はしなかった。 「風通しもいい、本当に有難う。シセリア。」 僕がそう言うと、彼女はびっくりしたように振り返った。 「初めて名前で呼んでくれましたね。でも、私の事はリンでいいんですよ。」 少し照れくさそうに、彼女はそう言った。 言われてみればその通りだ。僕は確かに彼女を名前で呼んだのは初めてだ。 でも、なぜ名前で呼んだのかはわからない…、名前などただの番号に過ぎない筈なのに… でも… 「君のことはシセリアと呼ぶよ。…駄目かな?」 彼女は、相変わらずのきょとん顔だった。 僕は、罰が悪そうに頬を掻く。 自分でもそれはびっくりだった。 彼女は… 「あなたの呼びたいように呼んで下さい。ね。シャム。」 笑顔で僕の名を呼んでくれた。
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