満月の見える部屋

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「いらっしゃい。」 店内へ入ると、愛想の良さそうなおじさんが、にっこり笑ってそう言った。 「ここのパンはとても美味しいんですよ。」 彼女は、バスケット片手に嬉しそうだった。 「特にこのクロワッサン、サクサクで美味しいんです。」 「クロワッサン?」 聞いたことのない名に、思わず聞き返してしまった。 「え?もしかして、ご存知ありませんか?」 「うん、まぁ…」 愚かだった、後から判った事だが、どうやらこのクロワッサンとやらは、この辺りではメジャーなパンで、家庭でもよく食べられるものらしかった。 「クロワッサンを知らないなんて、よっぽど遠くからいらしたんですね。そちらでは…どのようなパンが主流なのですか?」 さも不思議そうに、彼女はそう聞いた。 「トナティサン。知らないよね?」 「えぇ、初めて聞きました、一体、どんなパンなんですか?」 「えっと、こっちで言う『タイヨウ』に模した形の丸いパンで、一度焼いた後に糖をまぶし、もう一度軽く炙るんだ。」 自分が、柄にもなくこんな説明をしているのにちょっと驚いた。 「なんだか美味しそうなパンですね。」 「どんなものでも、続けて食べれば必ず飽きは来るさ。」 「そうですか?私はクロワッサン、全然飽きませんよ?」 彼女はまた、満面の笑みでそう言った。 正直、天界ではあまりなかったそういう対応に、どうしていいか解らなかった。 「私は、これとこれ、…それからこれも。」 バスケットがいっぱいになるぐらいパンを選び、彼女はレジへ向かった。 勿論、その中にはクロワッサンも入っている。 「そちらのお兄さんはどうしますか?」 おじさんにそう言われ、とりあえず、パンを二三選び、会計を済ませる。 勿論、クロワッサンも入っている。 その後、僕らは店を後にした。
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