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その部屋の中央には、一本の鉄柱が生えていた。
大人一人で手が回るか回らないかくらいの太さのそれは、少々の傷があるだけでとても大の大人が何度もハンマーを叩きつけたようには見えない。
「うぉぉぉっ!!」
ゴガンッ!
気合とともに身の丈ほどもあるハンマーを叩きつけたのは、腰を抜かすだけの新人ヒーロー、赤星・烈斗である。
「くぁっ」
打ち所が悪かったのか、柄を伝って響いた衝撃に呻き声を上げ、烈斗はハンマーを取り落とした。
痺れる両手を握ったり閉じたりして感覚を取り戻し、ハンマーを拾い上げようと手を伸ばす。
「やっておるようだネ」
声に振り向くが、開いた扉が見えるだけで誰もいない。
「……わざとかネ?」
視線を下げると、こぢんまりした老人がいた。腰が曲がっているせいか、横から見ると小文字のSに見える。
白く長い髭と眉毛で鼻以外の顔が見えないが、どうやら気に触ったらしい。
「いや、そんなつもりは……」
「冗談ネ」
特に笑いもせず言うと、よっこいせ、とハンマーを拾い上げる。
じーーぃっと見つめていたかと思うと、くるくると回して角度を変え、またじーーぃっと見つめる。
とりあえず自分も見つめてみる烈斗。
何度目かの回転中、ハンマーはいきなり速度を上げビュンビュンと風を切りはじめた。
烈斗が目で追えなくなった直後、ぴたりと鼻先に硬いものが触れた。
ハンマーの柄である。
「返すネ」
目を丸くするばかりで動けない烈斗の前で、老人はカッカッと高らかに笑った。
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